「……ない」

その日の朝、俺は無意識につぶやいた。

 

 

『また明日ね。』

そう言った葵の顔を思い出しながらココアを飲む。

元気だった頃の葵と俺の写真を見て微笑む。

静かな朝が流れる。

目を閉じて横になる。

ピンポーン・・・

「・・・はい」

「慶喜?あたし、真由美。
 そろそろ行こっか。」

「・・・ああ。」

バックを持って、ドアをあける。

姉の真由美がいつものように微笑んでいた。

「姉ちゃん、車買い替えたの?」

「うん。いいでしょー」

「・・そうだね」

「・・・」

心配するような顔で俺を見る姉ちゃん。

バタン

車をしめる音が妙に響く。

「・・・あたしこの歌好きなのよね。」

「ふーん・・・葵も好きだっていってたよ」

「そっかぁ。
 じゃあ元気になったら、葵ちゃんとあたしと慶喜でカラオケでも行こうか。」

「2人で行くよ。」

「冷たいなあ・・・」

笑いながら運転する姉ちゃん。

生まれてすぐ施設に入れられた俺と姉ちゃんは

施設で肺病を患う葵とであった。

俺より1つ年下の葵は、

人より体も弱いし、家族もいないのに

いつも笑顔で・・・

「着いたわよ」

「ん。」

病院に着く。

葵は半年前、また肺病で入院した。

俺も、姉ちゃんも、毎日葵を見舞っている。

「葵ちゃん、元気かなぁ。」

「元気だよ。
 昨日も、すごくキレイな顔だった。」

「さすが慶喜の彼女ね」

「・・・そんなんじゃないよ」

「ふふ」

シャーーーーーッ

突然横を担架が走った。

「あら・・・やっぱり病院は大変ね?」

「そうだな。」

203号室

「おはよう葵ちゃ・・・」

「?どうした・・姉ちゃ・・」

葵の病室をのぞく。

「いない・・・」

タッタッタッタッタッ

後ろから走ってくる音がして、俺らは振り返った。

「・・・あっ、あのっ、長谷川さんの家族の方ですか?」

慌てた様子で聞く看護婦。

「え、、、ええ・・・葵ちゃんは?」

姉ちゃんが震える声をおさえるように言う。

「朝・・・いきなり苦しみだして・・・」

背筋が凍りついた。

「今、緊急治療室に・・・・」

俺は無意識に走り出した。

「慶喜っ!!」

姉ちゃんの叫ぶ声がする。

俺は、いろんな薬を運んでいる看護婦をよけながら、治療室まで走った。

『緊急治療室』

手術中の赤い文字が俺の目にやきつく。

「葵・・・葵・・!」

後ろからそっと姉ちゃんがくる。

「慶喜・・・」

鼻をすする姉ちゃんの声がして、俺は振り向けなかった。

泣けない。泣かない。

葵が入院したあの日から、葵が生きてくれている間は泣かないと心に誓ったのに・・・・

 

 

「・・・・・・・・」

葵の葬式はあっけなかった。

施設の子たちと先生たちだけの粗末な葬式。

葵が骨になり、灰になり、煙になる。

「・・・慶喜。」

「姉ちゃん・・・」

「何?」

「俺たち、今からどうやって生きていくんだろう・・・」

「・・・・」

葵のために生きてきた。

葵だけが全てだった。

葵の笑顔のために、俺らは全てを犠牲にした。

俺らは葵が大好きだった。

葵もきっと・・・

『葵が動けるようになったら、慶ちゃんも、真由ちゃんも、葵が助けてあげるからね。』

いつも、助けてもらってたよ。

 

 

 

 

今日も俺は無意識につぶやく。

「……ない」

 

 

 

 

 

えーっと、あとがきです。

このHPでは初めて書いた話です。

『……ない』というお題を見てすぐ思いついた話です。

どうでしょう?

泣けましたかね?

無理ですよね?w

えーっと。葵さんが生きていらっしゃった頃の話も書きたいですね。 え